碧色の旗を掲げ

節操無しのレビューブログ。映画、小説、マンガ、ドラマ、イベント、とにかくマイペースに誉めたり誉めなかったりいろいろ書きたい。

映画「独裁者と小さな孫」 + 「大脱出」

 土曜の夜にスタローンとシュワちゃんが共演した映画「大脱出」の

TV放送を視聴しました。短く説明すると民間企業が運営する刑務所から

脱出するため協力しあうおっちゃん二人のお話だったんですけど。

 

「いきなり声をかけてきた男をあっさり信じるか!?

「警備甘いだろ!! この二人なんべんも問題起こしてるだろ!

 怪しめよ! ずっと隔離しとけよ!!」…などと、地理的優位性からにせよ

刑務所側のあまりの慢心っぷりにツッコミを入れたくもなりましたが、

かつて世界最強のマッチョ国家だったアメリカも、今じゃ力だけでは

解決できない問題を数多く抱えていることをみんなが知ってるわけです。

そしてそれなりに老いたヒーローたちも今じゃ頭脳を駆使した戦いを繰り広げて

いる…と思いきや結局は銃と拳の勢いに乗ってましたが、それは仕方ない。

だってスタローンとシュワちゃんなんだから。

 

一方で、二人の協力者であるアラブ人の姿が強く印象に残りました。

信仰心厚く、同胞や仲間には慈悲深く…例えば日本人が「命令に従うことと

引き換えに他の日本人の囚人への虐待をやめてくれ」なんて言う場面は

全然イメージできませんしねぇ。

 

…でも、仲間同士の固い結束が不幸な争いを呼ぶことも時にはあるでしょう。

 一方的な力による屈服は、暴力は、略奪は、憎しみや復讐心を生み、

新たな暴力の源になってしまう。どこかで飲み込み、終わらせなければならない。

そんな願いの込められた映画を先日観たのでした。

 

 

独裁者と小さな孫 (原題:The President)

2014年公開  上映時間:119分  言語:ジョージア語

製作:ジョージア・イギリス・フランス・ドイツ

監督:モフセン・マフマルバフ

音楽:グジャ・ブルドゥリ  タジダール・ジュネイド

出演者:ミシャ・ゴミアシュヴィリ  ダチ・オルヴェラシュヴィリ

  

 

 


映画『独裁者と小さな孫』予告編

 

※※※

 

某国の大統領は国民に圧制を強いる一方、家族と贅沢な暮らしをしていました。

自分の地位と権力をいつか幼い孫息子に受け継がせたいと思っていた大統領でしたが、

ある日クーデターが発生します。状況が深刻であると判断した大統領は妻子を

亡命させるものの、五歳の孫息子だけはおもちゃと幼馴染の少女を置いていくのを

嫌がり大統領とともに残ります。

しかし、空港から宮殿へ戻る頃には既に町の状況は一変していました。

市民は暴徒と化し、信頼していた元帥に裏切られ、側近たちも殺されるか逃亡して

しまいました。残されたのは祖父とわずか五歳の孫の二人だけ…反体制派は大統領に

高額の懸賞金をかけます。最高権力者の地位から一転、命を狙われる立場に。

密告を恐れ、貧しい市民から服を奪い変装した二人は混乱の続く国内をさまよう

羽目に…。はたして逃避行の果てに彼らを待ち受けているものは…?

 

※※※

 

ジョージアって? 州? コーヒー? …いえ、以前は「グルジア」と呼ばれていた

国だそうです。作品で使用されている言語は”ジョージア語”…字幕で”陛下”と

訳されている言葉がやたら長い…を使用していますが、この映画はいつの時代の

どこの国の出来事であるかを特定していません。

そのためTVも携帯電話もインターネットも登場せず、情報を知る手段はラジオです。

人名すらほとんど出てきません。

 

そして登場する人々はみんな貧しく、不幸です。

たった二人で逃避行を続ける大統領と孫は食うや食わずの彼らからわずかな持ち物を

盗み、時には助けられながら海を目指します。大統領は怒りっぽく、冷酷で、

ヘリを自分で運転できたりギター(盗品)を奏でて旅芸人に扮したり、無駄に多芸です。

状況を理解するには幼すぎる孫に手を焼きながらも、時に言い聞かせ、

時にはご機嫌を取る姿は普通の愛情あふれる祖父と変わりありません。

自分のしてきたことに対しはっきりとした謝罪や反省を示すことはありませんが、

それでも民衆の苦しみを見て、無邪気な孫からの耳の痛い問いを受け止め続けた

ことにより心境の変化はあったようです。

 

終盤には自分がかつて収容所に放り込んだ政治犯たちと行動をともにします。

皮肉にも息子夫婦(孫の両親)を暗殺したという男を背負い、彼をその妻の下へ

送り届けることになるのですが…。

 

独裁者=大統領は確かに数多くの国民を不幸にし、憎まれましたが、この映画は

一方的に彼一人のみに責任を負わせてはいません。”憎き”独裁者を追放しても内戦は

続いていますし、大統領が健在だった時には権力に乗じて市民を虐げていたのに

今度は彼を追いつめる側に立った軍人や、ただ恐れるだけで戦わなかった民衆をも

非難されています。しかし、この映画が何よりも強く発したかったと思われる

メッセージは「暴力の連鎖を止めなければならない」です。

 

憎くても、憎くても、苦しくとも、歯をくいしばって復讐心を抑えなければならない。

でなければ同じことの繰り返しになるのだと…。

今現在中東を中心に巻き起こっている憎しみの泥沼を思い返させられます。

簡単なこととも自分にはできるとも言えませんが、 誰かがそれを試みない限り悲劇は

繰り返され、憎しみが際限なく生まれてしまうのです。

 

あの国の人々は憎しみを止められたのか。止められなかったのか。

「時代や場所を特定しない」性質上、結末も明確ではありません。

ただただ、無垢な孫の人生に再び明かりが点ることを、

この映画のメッセージが一人でも多くの人の心に届くことを祈るのみです…。

 

 

評価:どこまで行っても不幸な人々の途切れない暗い物語の中で、素朴で切ない

メロディと孫の可愛さに癒されながら3回視聴。

 

独裁者と小さな孫 [DVD]

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